Wednesday 21 June 2006

第五世代プロジェクト



中心人物だった人が亡くなったという噂を聞いたので、自分的にちょっとだけ総括。思い込みと噂もあるけど。

真空管、トランジスタ、IC までが第三世代コンピュータで、(日本がある意味で制覇した) LSI ベースの第四世代コンピュータの次が何かというのを探るプロジェクトでした。1982-92 の10年。570億円のプロジェクトでした。F14戦闘機10台分ぐらいか? 安上がりなものだよね。

直接的に目指したのは、並列計算機によるAIのBreak trhoughだったと思う。Prolog/Logic Programming と、それの並列系である GHC, KL/1 とかがおまけについていた。400MHz clock, 1000台程度の並列計算機を実装しました。後半では、遺伝情報処理の方に流れが移行して、そちらの方は、RWC (Real World Computing)とかに引き継がれたわけだね。

だったけど、後半はだいぶ予算を削られたらしい。推進する人が亡くなったりの不運もあり、「梯子が外された」みたいな愚痴を聞いたことがあります。同時に推進されていた並列ベクトル計算機に対するアメリカの露骨な圧力とかもあったので、その関係もあったかも。米国、欧洲でも対抗するプロジェクトが立ち上がったりしていた、珍しく世界的に注目された日本のプロジェクトでした。その後、そんなプロジェクトはほとんどない。フォトンファクトリー、カミオカンデぐらいか?

このプロジェクトでダメだってわかったのは、人間の脳と同程度のハードウェアを用意しただけでは、人間と同程度のAIは得られないってことだと思う。つまり、そこにはBreak thourgh はなかったわけ。もっとも、Deep blue とかを見ると、特定の分野では、人間の知性と同程度の所までいけたとは思う。なので、その後のAIの研究は、別な方向に進むわけですが、まだ、壁がある。今のコンピュータを使う限り越えられない可能性もあります。

あと、Prolog 専用チップを作ったのだが、残念ながら、その部分は完全に時代に逆行してました。RISC/Super Pipeline/Super Scalar あたりの技術が立ち上がった時にぶち当たったので。Tron プロジェクトのG Microとかも、そのとばっちりを食らった時期。

逆に得られたものは、AIの基本技術、並列プログラミング技術、並列計算機の実装技術、遺伝子情報処理の基礎技術あたりか? 今でも1000台の運営はかなり難しいし。PCクラスタとかが注目をあびるのは、第五世代プロジェクトの後になります。

Logic Programming は僕的には面白かった。今でもプログラミングに関してLogicが重要なことは間違いない。ただ、Prologによる Logic Programming は、あまりに難しすぎた。それの並列版である Concorrent Prolog 系は、さらに、一段階、高度だったし。この後、計算理論屋さんは、さらにあっちの方に行ってしまう。

570億円のうち、かなりの部分が学術関係、大学の研究者とか、海外の研究者の招請とかに使われました。僕も、その恩恵を被った一人。Prolog とか良く使いました。たくさん博士が出たってのは、その通りです。

なのだが、主導した当時の通産省と、蚊帳の外に置かれた当時の文部省/科学技術省が、それを快く思わなかったことも確か。当時の電総研(今の産総研)の人が、第五世代プロジェクトは、電総研にお金が落ちなかったという意味で失敗だったみたいなことを言っていた気もする。ま、昔の話だし。その後の、RWCは、確かに産総研中心だったしね。もちろん、こういうお役所の縦割り行政を僕は良くは思ってませんがね。

逆に、第五世代プロジェクトは、珍しく世界的なレベルにあった日本の学術的なプロジェクトだったと言えると思う。しかも、物理関係でないという。そういう意味で、もっと評価されても良いと思うね。

もう一度、コンピュータのBreak though を目指すプロジェクトが日本から出ても良いような気もする。量子コンピュータとか分子コンピュータは、まだ、眉唾レベルだが... そういえば、超電導コンピュータとかどこに行ったのか?

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